円債市場では海外勢の存在感が日増しに高まり、海外勢の動きにほんろうされて国内勢のプレゼンスが低下するといういびつな構図となっている。 サブプライムローン(信用度の低い借り手向け住宅ローン)問題を発端にした信用収縮懸念で加速した株売り/債券買いの巻き戻しが一気に起こるなど、海外勢のフローがボラティリティの高い相場を主導する一方で、期初買いのチャンスを狙っていた国内勢は相場急落でリスク許容度が大幅に低下し、出鼻をくじかれた格好だ。
<3月の国債先物売買構成比、海外投資家は48%>
海外勢の動きに国内勢は息を止められそうな雰囲気だ──。円債市場で日増しに大きくなる海外勢の存在に対して、証券系のある債券ストラテジストはため息をもらす。
東京証券取引所がまとめた3月投資部門別国債先物売買状況(3月3日─3月28日)によると、海外投資家の売買構成比は08年度を通じて最高となる48.00%と2月(2月4日─2月29日)の33.34%から急上昇し、証券会社(37.03%)や銀行(14.47%)を大きく上回った。
3月はサブプライムローン問題を発端に、米欧金融機関の信用懸念が浮上。円債市場では流動性が高い国債先物が買われる動きが強まった。「国債先物に海外勢主体の投機的なロングポジションが積み上がった」(国内金融機関)という。イールドカーブ(利回り曲線)上も先物対象年限の7年ゾーンの割高感が一段と際立ち、ベア・スターンズの経営不安が伝えられた直後の3月17日には、7年債利回りが期間の短い5年債利回りを下回る逆イールド現象が顕在化した。
一方、物価連動国債や変動利付国債、超長期債などには海外勢の売りが膨らみ、一気にリスク軽減の動きが強まった。中でも物価連動国債は投資尺度の1つとなるブレーク・イーブン・インフレ率(BEI=期待インフレ率)が一時マイナス圏に転じて、原油高などを背景に上昇圧力がかかる国内消費者物価指数(CPI)と相反する動きを示すなど、海外勢のフローをきっかけに固定利付国債は割高、物国・変国は割安という「いびつなバリュエーション」が生じた。
<信用不安が緩和、株売り/債券買いの歯車が逆回転>
その後、4月にかけて相場が一変する。米連邦準備理事会(FRB)による連続利下げや資金供給策の拡充、米政府の景気対策など財政・金融から矢継ぎ早に飛び出した政策が奏功して、金融危機への不安が後退。インフレ懸念による米利下げ打ち止め観測の台頭などで、株売り/債券買いの歯車が逆回転し始めた。
4月25日には、日銀の利下げ期待を背景に中期債を中心に残高を積み増した都銀をはじめとする国内勢の損失確定の売りが加速。2003月6月に起きた標準的なシナリオリスクの管理手法である「バリュー アット リスク(VaR)ショック」の再来を彷彿(ほうふつ)させる価格急落の動きとなった。
乱高下した円債市場の動きをトヨタアセットマネジメント・チーフファンドマネージャーの深代潤氏は「流動性危機への対応をテーマにしたリスク回避のトンネルを抜け、ファンダメンタルズを見ながらの相場にようやく戻った」と指摘する。
<リスク許容度が低下、本格的な債券投資再開に時間>
ニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)の原油先物CLc1が、国内の大型連休中に1バレル=120ドルを突破して最高値を更新した。原油高は「インフレ要因となる一方、企業業績悪化や個人消費停滞を引き起こす要因につながりかねない」(大和証券SMBC・チーフストラテジストの末澤豪謙氏)として、短期的には株価の上値を抑制する一方、債券買いの潜在需要を生じさせる。
しかし、3月からの波乱相場で受けた市場の後遺症は余りにも大きい。国内証券最大手である野村ホールディングス(8604.T: 株価, ニュース, レポート)の2008年3月期連結当期損益(米国会計基準)が9年ぶりに赤字に転落するなど、サブプライムローン問題に絡んだ損失を計上などで金融機関の経営基盤が弱体化。
4月以降に行われた10年・5年といった主要年限での利付国債入札では、投資家の慎重な買い姿勢を反映して最低落札価格と平均落札価格の開き(テール)の拡大傾向が続いている。「入札では必要最小限の額しか落札できなくなるなど、外資系・日系を問わず業者のリスク管理が一段と厳しくなっている」(国内証券)という。
UBS証券・チーフストラテジストの道家映二氏は「値動きの荒さに加え、現行の金利水準では保有債券の含み損が大きく、金利リスク量を増やしづらいようだ」と指摘している。道家氏の見方を裏付けるように、市場関係者からは「一度相場から撤退してしまうとすぐに再び参入というわけにはいかず、なかなか残高を積めていない」(都銀)との声も漏れる。
「銀行は売った分と同じだけすぐに買うというわけにはいかない。まずは被った損を落とすところから始めないといけないので、しばらくは金利低下場面で戻り売りを繰り返し、徐々に体力を取り戻していくことになる」(別の都銀)となどの声が聞かれ、国内メーンプレーヤーである銀行勢による本格的な債券投資再開には、時間がかかる気配だ。
銀行勢の収益計画は果たしてどうなるのか。大和証券SMBCの末澤豪謙氏は「日銀の金融政策の方向性が利下げでなく利上げとなると、債券収益が悪化する。銀行は収益源として債券に期待せず、貸出などの銀行の本業業務のスプレッドが拡大しているクレジット投資に収益を求めるのではないか」との見方を示している。円債市場は、確固たる買い手不在となりつつある。
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